青森地方裁判所 昭和43年(ワ)128号 判決 1969年7月26日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 原告訴訟代理人は、「青森地方裁判所昭和四三年(リ)第七号配当事件につき同裁判所が作成した配当表を取り消し、金七四万一、三四一円全部を原告に交付するものと更める。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。
一 原告は訴外下山勇太郎に対し貸金、運送賃、木材、セメント等の売掛代金等の合計金八八万一、七〇〇円の債権を有していたが、その支払を得ることができなかつたので昭和四二年一二月始め右債権保全のため下山が訴外東通村森林組合に対して有した工事代金債権中右債権と同額の債権につき仮差押命令を得、これが右第三債務者に送達され、ついでむつ簡易裁判所に対し下山を債務者として右債権全額とうち金五〇万円に対する昭和四一年一二月三一日から昭和四二年六月二〇日まで年一割八分の利息および同月二一日から完済まで年三割六分の遅延損害金、金三八万一、七〇〇円に対する昭和四二年一二月一九日から完済まで年六分の遅延損害金の支払を求めるため支払命令の申立をし、同裁判所からその旨の支払命令の発付を得、これにつき仮執行の宣言が附されたが法定期間内に異議の申立がなく右仮執行宣言附き支払命令は確定した。よつて原告は右債務名義にもとずき前記第三債務者に対する仮差押中の債権に対し差押および転付命令を得、これが昭和四三年二月一八日第三債務者に送達されたのであつた。
二 しかるに、被告らは原告の右仮差押命令の送達があつたのを知るや前記下山に対し賃金債権等なんらの債権も有しないのにかかわらず同人に対する未払賃金債権があるものとして、むつ簡易裁判所に即決和解の申立をし、被告畑中久一は当時下山が不在であるのに乗じて下山の名義を冒用して訴外岡田武に対する委任状を作成して同人を下山の代理人として出頭せしめたうえ「相手方(訴外下山勇太郎)は申立人畑中久一に対し金一〇万四、二四四円、堀春栄に対し金九万一、九一六円、天間金一に対し金一三万六、九一四円、天間金之丞に対し金九万一、六三四円、簗田正一に対し金九万二、二四六円、天間仁太郎に対し金五万五、〇一五円、天間金四郎に対し金八万四、五二八円、村市富芳に対し金六万二八六円、斎藤はまに対し金六万六、七二五円(以上合計金七八万三、五〇八円)の支払義務のあることを認め各申立人らに対しこれを昭和四二年一二月末日限り支払うこと。」という趣旨の和解を成立せしめて和解調書を得、これにもとずき昭和四三年一月二四日青森地方裁判所から前記第三債務者に対する下山の工事請負残金債権中七四万円に対して債権差押並びに取立命令を得、右命令は同月二六日右債務者および第三債務者に送達された。
三 しかして、第三債務者東通村森林組合は昭和四三年三月二七日青森地方法務局に右工事請負残金として金七四万一、三四一円を供託したが、青森地方裁判所は同庁昭和四三年(リ)第七号配当事件において右供託金につき被告ら九名に対し別紙のとおりの金員を配当すべきものと定めて配当表を作成した。しかしながら前述のとおり前記和解調書表示の債権は架空のものであつて、被告らに対し配当されるべき金員は存在しないから右配当表をすべて取り消し、右金員を全額原告に交付する旨の裁判を求めるため本訴請求におよんだ。
証拠(省略)
第二 被告ら訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告主張事実に対し次のとおり述べた。
一 原告主張事実中一の事実は不知、二の事実中原告主張の和解の成立、調書作成に関する事実(ただし、岡田武の無権代理に関する点は除く)、原告主張の債権差押並びに取立命令が発せられ、原告主張の日に債務者および第三債務者に送達されたことは認めるがその余の事実を否認する、三の事実中第三債務者東通村森林組合が原告主張の請負残金を供託し、右供託金につき原告主張のとおりの金員が被告に配当されるべきものとして別紙配当表が作成されたことは認めるが、その余の点を否認する。
二 被告らはいずれも債務者下山勇太郎に対し本件和解調書表示のとおりの給料債権を有し、右和解調書は無効ではない。
理由
一 成立に争いのない甲第五号証の一、二によれば、原告が訴外下山勇太郎に対し昭和四一年一二月三一日金五〇万円を利息年一割八分、遅延損害金年三割六分返済期日昭和四二年六月二〇日の約定で貸付けたほか、昭和四一年六月一〇日から昭和四二年八月二七日までにわたり玉石、セメント等を運搬した運送賃残金二二万四、七〇〇円、昭和四一年九月一〇日から同年一〇月四日まで古材三一石を売渡した代金一五万円、昭和四二年八月二四日売渡したセメント代金七〇〇〇円、以上合計金八八万一、七〇〇円の債権があり、右債権と右貸金五〇万円に対する昭和四一年一二月三一日から昭和四二年六月二〇まで年一割八分の約定利息、同月二一日から完済まで年三割六分の遅延損害金、その余の債権合計金三八万一、七〇〇円に対する支払命令正本送達の日の翌日から完済まで商事法定利率の年六分の遅延損害金の支払を求めるためむつ簡易裁判所に対し支払命令の申立をし(同庁昭和四二年(ロ)第二二七号)、昭和四三年一月一六日同庁からその旨の支払命令の発付を得、ついで法定期間内に右債務者から異議の申立がなかつたので債権者たる原告の申立により同年二月六日右支払命令につき仮執行の宣言が付され、これが送達されたこと、が認められ、右認定に反する証拠はない。
二 次に成立に争いのない甲第一号証ないし同第四号証をあわせれば、被告ら九名は前記下山勇太郎に雇傭されていたところ昭和四二年九月一日から同年一一月三〇日までの未払給料債権があるとして昭和四二年一二月二五日むつ簡易裁判所に対し下山を相手方として右金員の支払を求める旨の起訴前の和解の申立をし(同庁昭和四二年(イ)第三号)翌二六日の和解期日において下山の代理人として訴外岡田武が出頭のうえ同人と被告らとの間において原告主張のとおりの和解が成立し、調書の作成を得、昭和四三年一月一六日右和解調書に執行文が付与されたこと(以上の事実中、右和解の成立並びに和解調書の作成に関する事実は当事者間に争いがない)が認められ、被告らが右和解調書にもとずき前記下山の訴外東通村森林組合に対する工事請負残代金債権中金七四万円につき債権差押並びに取立命令を青森地方裁判所に申請し昭和四三年一月二四日同庁からその旨の各命令の発付を得、同月二六日これが右債務者および第三債務者に送達されたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五号証の二に弁論の全趣旨によれば原告は前記仮執行宣言付き支払命令の送達後の昭和四三年二月一六日下山の東通村森林組合に対する工事請負残代金債権(被告らの申立により発せられた差押並びに取立命令の対象たる債権と同一債権)につき右仮執行宣言付き支払命令にもとずき差押並びに転付命令を右裁判所に申請をし、その発令を得、これが右債務者および第三債務者に送達されたところ第三債務者たる東通村森林組合は右工事残代金として金七四万一、三四一円を供託したことが認められる。
三 しかして執行裁判所たる青森地方裁判所が同庁昭和四三年(リ)第七号配当事件において右供託金につき被告らのため別紙記載のとおりの配当表を作成したことは当事者間に争いがない。
よつて、本件異議の当否につき判断するに、成立に争いのない乙第二号証の一ないし六、同第三号証、証人山下勇太郎の証言により真正に成立したと認める同第四号証の一ないし一〇、証人下山勇太郎、岡田武、宮本義雄の各証言、被告畑中久一、天間金四郎、簗田正一各本人尋問の結果を綜合すれば、下山勇太郎は下山組の名称で土木請負業者を営み、被告畑中久一は帳場として労務管理、資材調達、給料支払等の事務担当者、同堀春栄は運転手兼土工、同天間金一は現場主任、同斎藤はまは雑役婦、その余の被告らはいずれも土工として雇傭され、昭和四二年初め下山が多額の債務を負担したため一時現地を離れて上京した後は被告畑中が事実上下山組を主宰し、その余の被告らも従前同様下山組のもとで稼動することとし、昭和四二年度中に下山組が落札請負つた前記森林組合の工事ほか数件の工事に従事したこと、そうして、被告らの右労務賃金のうち同年八月分までの賃金は支払われたが、翌九月分から同年一一月末日までの賃金は未払であり、その未払賃金は各被告につき前記和解調書表示のとおりの金額となるところ訴外岡田武は前記和解の申立に先き立ち当時八戸市に在住中の下山から右和解についての委任を受け、和解期日に下山の代理人として出頭のうえ右和解調書表示の各条項につき承諾を与えたのであつたことが認められる。
弁論の全趣旨によれば右森林組合に対する工事残代金債権につき被告らの右和解申立前に原告が仮差押をしたことが認められるが、右事実だけで右和解条項の内容たる被告らに未払給料債権の存することが虚偽であると速断すべきではなく、原告本人尋問の結果中右認定とてい触する供述は上掲各証拠に照らして信用するに足りない。その他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
従つて、被告らは、下山に対して前記和解調書表示のとおりの未払給料債権を有するのであり、右給料債権は民法第三〇六条第二号、第三〇八条により一般債権に対して優先弁済権のあることが明らかである。
四 そうすると前記配当表は正当であり、原告の右配当に対する異議は理由がないから原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
別紙
<省略>